3.がん記念日

3.がん記念日

三十年くらい前に歌人・俵万智さんが出版した第一歌集「サラダ記念日」。
<『この味がいいね』と君が言ったから七月六日はサラダ記念日』>をはじめ、この歌集には若い女性のリアリティがたくさん詰まっていた。
<「嫁さんになれよ」だなんて缶チューハイ二本で言ってしまっていいの>なんていうのもあって可笑しくもあり、時折思い出すことがあった。昨日も急に懐かしくなり、調べていると俵さんのHPにたどり着いた。
HPタイトルは「俵万智のチョコレートBOX」。変わらない印象がある。自選百種のうち「サラダ記念日」からの選出は全部覚えのあるものだった。今読んでも「ホウ、ホウ」と思う。

ところで、昨年から四月五日は私のがん記念日である。「サラダ記念日」から約三十年経った一年前の今日、とある病院へ結果を聞きに行った私は「やはり、がんですね」と言われたのだった。
これは、とてもではないけど「ホウ、ホウ」とは思えなかった。

聞こえてはいるのだけど、
意味はわかるのだけど、

わからない。
信じられない。

努めて冷静にしているのだけど、
涙が出てくる。

がんが判ってから、この時だけは人前で泣いた。
そのあと泣かなかったのは、そこの医師と看護師の方が随分いたわってくれたから、悲しい気持ちがかなり昇華されたのだと思う。
とてもありがたかった。

がんだけではないだろうけど、人生にはこういう、もの凄い爆弾のようなものがある。
ショックだし、信じたくないもの。

そんな時でも時間は刻々と過ぎていく。
それでもどうにか、その時々、必死の思いで今出来るだけのことをやっていると、爆弾で破壊されて荒地になったところから、いつの間にか新しい草やら花やらが元気に育っていることに気づく。

がんはショックだったが、悪いことばかりではない。
新しいことを知り、新しい体験をし、新しい視野を持つことができた。
壊れることで新しいものが生まれる、というのは一理あるなと思う。
私は作るのが好きで、壊すのは苦手なのだけど、壊すことが作ることに繋がるのだということを初めて実感した気がした。

Cancer’s Giftというものがあるらしいが、
私は受け取ることができたと思う。

ありがとう。

(写真はイタヤカエデの花)